捨てがたい1冊

 

 何年たっても捨てがたい本というものがある。私の場合、浪人時代に予備校で使っていたテキストがそれだ。

 『新英米文学セミナー』は英語のH先生の授業で使っていたものだ。長文読解のためのテキストである。テキストの最初に出てくる文章が、one sentence5行(50語以上)にも及ぶ長い文章だった。

 H先生はこれを黒板に絵を描きながら、どういう情景を言っているのか分かりやすく説明してくれた。 この一言で、私は日本語に訳さないで英文を英文のまま理解するコツをつかんだ。このテキストは、私が英語に開眼した本である。


 

 捨てがたいもう1冊の本が、同じく予備校で使っていた現代文のテキストである。このテキストで、先生が我々に問いかけてきたのはただ一つ、「要するに筆者の言いたいことは何ですか?

 文章を読むということは、要するに筆者の言いたいことをつかむことだと初めて教えられた。それさえつかめれば、あとはどうでもいいことである。全体が分かれば、部分もわかる。このテキストからそういうことも学んだ。もう44年も前のことである。

 

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